フレンドメモ


初日はとりあえずストーリーを把握して終わった感じだったけど、2回目(公演全体では4ステ目)になると役者側もだいぶ馴染んで来てるしこちらも予備知識があるうえでの観劇なので見逃してたところや聞き逃してたセリフもちゃんと聴こえてとても良かったです。と言うかめっちゃ良かったんだよね2回目。この舞台は2回見た方がいいと思いますw 映画でもなんでもそうだけど。
そして何度か観劇してきまして、記憶を記録に残すべくつらつらメモ。

以下盛大にねたバレなのでご注意。


舞台は渋谷の居酒屋「フレンド」の店内。最後の最後にセット転換があるけど、99%このセットです。バーカウンターがあって西洋の影響を受けた昭和初期らしい雰囲気。
ストーリーは昭和5年から始まり、最後に昭和20年で終わるので暗転によって時代が進みます。暗転の際に演者による時代背景の説明があったり、時間帯を表すのに街の雑踏の音がしたり。そういえばちんちん電車の音がする場面があるのだけど、この頃は渋谷にちんちん電車が走ってたんですねぇ。
あとこの舞台の特徴は衣装替えが多いこと。場面がどんどん変わっていくと言うこともあり、衣装替えも8回くらいあります。京都帝国大学の学生服姿、グレーのウインドペインのスリーピース、白シャツを袖まくりにしてロールアップのパンツ、白シャツにクリーム色のチノパン、喪服、国民服、最後の終戦時の服。安原だけでこれだけあるので他のみなさんもかなり多い衣装替え。これも見どころのひとつですね。これだけ衣装替えがあると裏側も更にてんやわんやだろうなー。

基本的に中原中也を取り巻く人たちの話しなので安原が主人公の舞台と言えど実際の主人公は中原みたいなものです。でもそれが良くて、ジャニ主演のジャニ舞台の色はほぼなく、とある劇団の定期公演のようでした。そして中也がいるからこそ安原の良さが引き立つわけで、こんなにいい人いるの?!ってくらいいい人として描かれています。ストフルで心身ともに疲れていたますださんには最適の役をいただきましたねw つかストフルがあんなに言うほどしんどかったなんて、あまりにも言いすぎてて脚本の例の彼が傷ついてると思うぞーww
それはさておき、年齢も青春真っ盛りの二十歳ごろから結婚後の30代まで演じるので、暗転する度にちょっとずつ大人になっている演技をしているのもとても良かったです。最初20代前半の頃の場面ではセリフは小難しくて文学的なんだけど、カルロスとノボルを足して割ったようなお茶目で可愛らしいキャラでした。相変わらず力んでしゃべるときに両手をグーにしちゃう癖が治ってなくて凄く残念だけど、横内さんはそれ気にならなかったのかな?てかカルロスっぽい時点で横内さんの脚本演出だからって思うと納得も出来ますしねww

個人的には中也のお葬式から帰ってきて泥酔しながら号泣するところが好きです。中也を支え切れなかった後悔と、最後まで中也と向き合っていた秀雄への嫉妬が混ざった感謝の気持ちが上手く表現出来てたな。「小林先生、ありがとうございます!」って言い方が、ああこう言う酔っ払いいるいる!と妙にリアリティありました。あそこは上手かった!
中也役の要さんに関しては個人的には本当の中也との違いがありすぎて、やっぱりどうしても違和感があると言うか私の中で中也は現代で言うと町田まちぞーなのでwそのイメージを塗り替えることは出来なかったな。むしろもうひとり中也がいたような感覚で見ました。って本当の中也がどんな人だったかは知らんけどw 中也があんなにハスキーな声なのも違和感あるけど、終盤で中也と安原がサーカスをユニゾンで朗読するところは二人の声って意外とあっててとても良かったです。てごしとは全然違うハーモニーが出せそうな二人の声でした。
そういえば櫂歌を中也が朗読するの安原が朗読するのとではもう受ける印象が全然違う。ここの対比がすごく面白かったです。要さんのハスキーヴォイスでは厳しく寒い荒波を漕いでゆくような情景が浮かぶけど、ますだが朗読すると太陽の光にキラキラ輝く水面を進んでいくまさに順風満帆な航海が思い浮かぶんですよね。もし安原さんが本当にこんなような人だったとしたら、中也はその明るさと力強さに支えられ憧れてたのかも知れないなぁ。

秋子役のあっちゃんも声が私の好みではなくてちょっと残念なのだけど、中也を罵倒するときのドスの利かせ方はとても良かったです。小柄な女性な上にますださんがめっきり巨大化してるので、抱き合ってるところの抱きしめられっぷりもとても良い絵面でした。内面はとても強い女性だけど見た目は華奢なのが男にはたまらんでしょうなw てかあのアニメ声でメイド服もとい女給服は、もしかしてここ基準でキャスティングしましたか?ってくらい似合ってましたw
あと三郎さん役の菅原さん。笑いのシーンはほぼ彼の功績ですw でも前半の笑いが多ければ多いほど戦争で傷痍軍人になったあとのさぶさんの変わり様が際立っていてとても切ない。お国のために戦争に行ったのに整備中の誤爆で腕を無くし、国の役にも立てず死ぬことも出来ず帰国して精神が崩壊してしまった人。そして勝てるわけがない戦争へ突き進む軍部のキチガイ思想を投影している演技も素晴らしかったです。そういえば私が学生の頃はごくたまーにだけど渋谷で傷痍軍人を見かけたことがあったけど、さすがにもう亡くなっているだろうなぁ。
安原の幼馴染のていちゃん(よしが大好きで自慢で仕方ないていちゃんが私も大好き!w)や下町の仲間や店のおじさんおばさん、それぞれに良いキャラクターで全員のことが書きたいけど、更にダラダラ長くなりそうなので割愛。フレンドのおばさんはめっちゃ吉本新喜劇っぽくてこれまた面白いですw

この物語の軸にあるのは、「どんなに貧しくても文学や芸術に触れることが出来れば戦争なんて起こらない。文学や芸術が人の心にザルツブルグの小枝の結晶作用を起こさせ、深くこの世に恋をすることが出来る」と言うもので、そのメッセージは大賛成なのだけど、そもそもそういうものが好きな人かその素質がないとその効果って生まれないし意外と平行線のままの場合もあるよなーって思ったりもします。あと終盤の戦争への傾倒の仕方と東京大空襲のシーンが強烈すぎて、最後の割れたレコードでも音が聴こえると言うザルツブルグの小枝の結晶作用を表現するにはちょっと結晶作用が弱いなーと思いました。あそこもうひと場面あっても良かったなーと思います。でもあそこまでセット転換しちゃうとそれは難しいか。

今回の舞台はモヤモヤするところがほぼなく物語もメッセージもとても分かりやすい。ますださんが何度も言っていた美しい言葉と素敵な場面が沢山出てきて雨森と同じくらい好きな舞台になりました。雨森では変な癖をつけてしまってあれが後に私を悩ませる原因になったけどw今回はそういう副産物の心配はなさそうです。ちょっと巨大化しすぎてて絞って欲しいけどwww

もう折り返しも過ぎて残り公演数の方が少なくなってしまったけど、最後まで素敵な舞台が出来るよう祈っています。

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安原:主人公。中也の一番の理解者。
中原:奔放な詩人。安 原の友人。
秋子:フレンドで働く女性。安原に想いを寄せている。
泰子:中也の元恋人。小林の元恋人。
小林:中也の才能を認めている編集者。
定吉:安原の幼馴染。フレンドの常連。
大岡&染谷:文学仲間。


エピローグ。酔っぱらった中原を抱えながらフレンドに入ってくる安原。喧嘩の経緯を秋子に話し再び安原を抱えつつ「詩を語れる人を探しに行きましょう」と下宿へと去っていく。
昭和5年、渋谷の駅前では3年前に死んだご主人の帰りを待つ犬が話題になり始めていた。
主人公安原は中原たちと共に同人誌「白痴群」を発行している京都帝大の学生。渋谷の洋風居酒屋フレンドにてメンバーたちと集まるも同人誌の内容に関してもめるメンバーたち。安原の苦労を全く意に介さない中也に熱湯をかけて激怒する秋子。中也とメンバがもめないように仲裁をするも結局もめてしまい自分の力不足に落胆する安原。

昭和7年、大学を卒業し百科事典の編集者になることが決まった安原。卒業祝いで久々にフレンドで仲間たちと集まる。そこへ遅れてやってきた中也は銀座のカフェで女給になった泰子と秋子を連れてくる。秋子はフレンドを辞め弟の学費を稼ぐため泰子の紹介で銀座のカフェで働いていた。秋子の変わり様に驚く安原。
中也の勘違いで詩集の発行に目処が立っていないことを知り激怒する中也。それをたしなめる秋子。「詩人の声は労働者には難しすぎて届かない。レコードを貸して貰ってもみなしごの娘の家にもご近所にも高価な蓄音機はない。それが現実だ」と。それに対してスタンダールザルツブルグの小枝の結晶の話しを引用し反論する中也。一同中也の話しを絶賛する。
秋子に妾の話しが来ておりそれに反対するフレンドの夫妻。これ以上迷惑はかけられないと断る秋子を説き伏せ、秋子を養女にする話しがまとまる。それを立ち聞きしていた安原も号泣して喜ぶ。そして返されたレコードに入っていた秋子からの手紙を読んで秋子の内面は変わっていなかったことに安心する安原。そんな二人の幸せな雰囲気をぶち壊すように中也たちが戻ってくる。発行の目処が立たないことに荒れる中也。それをなだめ中也の才能を絶賛し「詩集を出しましょう」と力づける安原。

昭和8年、景気が良くなってきた日本。国際連盟を脱退した日本。戦争の色も強くなり雲行きは怪しい。
雷雨がとどろく中、台車に中也の詩集の印刷物を持って駆け込んでくる定吉とゴウ。自費出版に切り替え詩集を印刷するも製本する費用が足りなくなり出版は中断していた。それに業を煮やした中也が紙を燃やすと言い出し、紙を安原の蔵に避難させるべく運んでいた途中だった。中也に追いつかれ揉める定吉と中也。そこへ小林を伴って安原がやってくる。小林は世間的にも認められつつある編集者になっていた。小林が出版を請け負うことになりようやく詩集出版が現実味を帯びてくる。安原の協力に感謝して表紙の絵を依頼する中也。それを快く受ける安原。櫂歌を朗読し喜びをかみしめる。

昭和9年夏、祭り前夜、秋子に縁談の話しが来る。三郎には「あきちゃんには義弘くんがいるじゃないか」と言われるも二人の関係に進展はなかった。
夜、表紙の版画を持ってフレンドにやってきた安原。詩集を出版する目処も立ち、自分の道も探さなきゃと、秋子に「結婚を前提にお付き合いしてください。君が好きだ」と告白する。震災のトラウマを抱える秋子は「絶対に死なないでよ」と言い「僕は秋子を悲しませない。約束する」と返す安原。
翌日、結婚の承諾を得るため秋子の両親に挨拶にやってくる安原。秋子は詩集の表紙がどだったか聴くも「あれはボツになった」とだけ伝える安原。そこへ中也と泰子がやってきて、安原の表紙は青山によって酷評され投げ捨てられていたことを知り、それに反論をしなかった中也に対して激怒する秋子。だが安原は「これで納得がいった。文学も芸術も大好きだけど、自分が来れる限界はここまでだと」文学と芸術の旅を終え秋子と新しい未来を築くことを告げる安原。それを聞いて激怒する中也。自分を支えてくれた安原の言葉に絶望しフレンドを出てゆく。

昭和9年冬、フレンドに中也が訪ねてくる。出迎える秋子。安原は横浜の女学校の英語教師をしており今日は雪のため宿舎に泊まっていて留守だった。本が出来たと「山羊の歌」の製本を差し出す中也。「よしさんの蔵に2年置いて貰った本だ」と。過去の自分を反省するかのような言葉を吐く中也。そして結婚して子供が生まれるため広島に帰ると言う。「生い立ちの歌」を口ずさみながら去っていく中也。

昭和12年、三郎出兵。日中全面戦争。
病気で死んだ中也の葬式後、泥酔した安原をフレンドへ連れてくる小林と泰子。精神病院にいたころに書かれた安原への手紙を中也の母から受け取った安原は後悔の念に苛まれ号泣する。

昭和15年、日本は戦火がますます厳しくなり戦争で右腕を無くした三郎も人間が変わったようになってしまっていた。
久々にフレンドを訪れる同人誌仲間の大岡と染谷。そこへ闇市で物資を仕入れた安原夫妻が戻ってくる。また同人誌をやろうと安原に提案する二人。文学や芸術がすたれてしまった日本にやりきれない想いを抱く安原もそれに賛同する。
安原の幼馴染、定吉やその仲間も志願して出兵して行った。安原は肩を震わせ見送る。
軍の締め付けを心配して同人誌の制作に反対する秋子。だが安原は「僕には小枝の結晶があるから死にたくない。でも自分の友人や教え子たちにもこの小枝の結晶を分けてあげたいんだ」と言って秋子を説得する。

昭和16年、安原たちの同人誌は紙が尽きて出版も停止してしまっていたが、発行のあてもないまま安原は原稿を書き続けていた。

昭和20年、東京大空襲で山の手いったいも燃え盛る中、秋子を探し回る安原。そこへ中也の幻が現れ、文学を忘れるなと安原に言う。燃え盛るフレンドにかつての仲間が集まり中也のサーカスを仲間たちと朗読する安原。
気付くと安原と中也二人だけになり、「僕は生きなくてはいけないんです!!」と強く中也に訴えかける安原。「生きろ!」と力強く返す中也。
気づくと安原は焼野原に倒れていた。そこへ安原を探しに来た秋子と再会。生きて再び出会えた喜びをかみしめる二人。中也の詩集や手紙を持ち出し安原に渡す秋子。でもレコードは割れてしまっていた。その割れたレコードを耳にあて「聴こえるよ。ちゃんと聴こえる」と安原。二人でレコードに耳を当て再び強く抱き合う。